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内科・呼吸器内科|
とじま内科クリニック
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健康メモ

健康メモ(33)「免疫機能を強化するには」 参考文献:「新しい免疫力の教科書」(根来秀行 著)

 生まれつき備わっている免疫機能は、自分で高めることができます。ここでは4つの方法を紹介します。

(1)血流を上げる

酸素や栄養素を体の隅々まで届けるために、血流を上げることは大切です。適度な筋トレ有酸素運動をすることが効果的です。筋トレは①腕立て伏せ(立位でもOK)、②腹筋・背筋運動、③スクワットのいずれかを1日5分くらい行います(日替わりで行うのが効果的です)。きたえる際、特に重視したいのは下半身の筋肉です。お尻と太ももだけで、全身の筋肉の70%程度を占めているからです。これらをきたえることで、効率的に筋肉量を増やすことができます。

有酸素運動はウォーキングのほか、ダンス、水泳、踏み台昇降など15分くらい続けられて息が切れない程度の運動です。
入浴は眠る1~2時間前までに、ぬるめのお湯(38~41℃)に20~30分つかるとよいでしょう。湯船の中でストレッチをすると、さらに血流がアップします。


(2)毛細血管を緩める

腹式呼吸瞑想などを行うと、副交感神経が優位になって、それまで締まっていた毛細血管が緩みます。これにより、締まっていたその先の細胞まで血液が流れることで酸素や栄養素、ホルモンが必要な場所へ届けられ、体のメンテナンスが行われます。

腹式呼吸(日本医師会HPより引用)

 背筋を伸ばして、鼻からゆっくり息を吸い込みます。このとき、丹田(おへその下)に空気を溜めていくイメージでお腹をふくらませます。
つぎに、口からゆっくり息を吐き出します。お腹をへこましながら、からだの中の悪いものをすべて出しきるように、そして、吸うときの倍くらいの時間をかけるつもりで吐くのがポイントです。
回数は1日5回くらいから始め、慣れたら10~20回が基本ですが、その日の体調に合わせて、無理なく楽しみながらやりましょう。


瞑想

まず、椅子に座る、座禅を組むなどして、姿勢を正します。

目を閉じ、呼吸をしながらカウントしたり、呼吸をしている鼻、胸、おなかなどに意識を向けたりします。こうした自分の状況だけに集中し、雑念は無視します。「今、ここ」だけを意識して瞑想すると、脳の疲れがとれて、ストレスも解消されやすくなります。



(3)リンパを流す

リンパ管は老廃物を回収する働きがありますが、その流れは体の末端から中心への一方通行のため、滞りやすいのです。就寝前に「リンパを流す呼吸法」を試してください。

 仰向けに寝て、膝を軽く曲げて立てます。おなかに軽く手をあてます。次におなかを膨らませながら、5秒ほどかけて息を吸います。そして、おなかをへこませながら10秒ほどかけて息を吐きます。これを数回繰り返して、心身のリラックスを感じます。

横隔膜の近くには「乳び槽」というリンパのたまり場があり、横隔膜を動かすことで腹圧が変化すると、たまっていたリンパが刺激を受けて流れやすくなるのです。

 これにより、リンパ節に待機する免疫細胞もリンパ管をスムーズに流れることができるため、免疫機能が働きやすくなります。

(4)睡眠の質を高める

 質の高い睡眠によって、自律神経のバランスがうまくとれ、心身の健康が保たれます。また、成長ホルモンなどが十分に分泌されることで、傷ついた細胞が修復・再生され、病気などに負けない体がつくられます。「マインドフルネス瞑想呼吸」が睡眠の質を高めます。

  1. 仰向けに寝て手足はゆったりと伸ばし、目を閉じます。
  2. 自然に呼吸しながら、胸やおなかの動きに意識を向けます。
  3. 息を吸うときに「膨らみ、膨らみ」、息を吐くときに「縮み、縮み」と、心の中で唱えます。
  4. 余計な考えが浮かんできたら、「今、考え事をしている」と心の中で確認し、その雑念を風呂敷に包んで捨てるところをイメージします。そして、心を落ち着けて「戻ります」と確認し、呼吸に意識を戻します。余裕が出てきたら、意識を全身に広げ、体の隅々で呼吸しているイメージをしてみます。5分くらい続けます。

 睡眠ホルモンであるメラトニンは、起床してから15~16時間後に分泌され始め。その1~2時間後に分泌量が最も多くなります。メラトニンは血圧や深部体温を下げ、眠りにつきやすい状態へ導く作用があり、夜は自然で良質な睡眠がとれるようになります。その分泌のタイミングに大きく関わるのが、朝の日の光です。これが目から入り、体内時計がリセットされるのです。朝6~7時に起きた場合、メラトニンの分泌量が特に多いのは23~24時ごろで、その後、朝に光を浴びるまで、メラトニンが効力を持ちます。朝起きたらカーテンを開けて日の光を浴びましょう。

健康メモ(32)「60歳を過ぎたら睡眠は6時間で十分」 参考文献:「60歳からの新しい睡眠習慣」(栗山健一 著)

 夜、布団に入ってもなかなか寝つけない。夜中に何度も目が覚めてしまう。こうした悩みを訴える方は、高齢になるほど多くなります。若い人の場合、夜、寝ようとしてもなかなか寝つけない原因に、うつ病、不安症などの精神疾患が潜んでいることが多々ありますが、60代以降の場合は疾患とはいえない別の原因があるのです。

健康メモ(32)「60歳を過ぎたら睡眠は6時間で十分」 参考文献:「60歳からの新しい睡眠習慣」(栗山健一 著)

 実際に眠っている時間(体が必要とする睡眠時間)を脳波計で調べた調査では、睡眠時間は年齢とともに減少し、25歳では平均約7時間でしたが、45歳で約6.5時間、65歳では6時間を下回る結果になっています。つまり、年をとると「眠れない」のではなく、「眠る必要性が少なくなっている」のです。それにもかかわらず、寝床にいる時間は高齢化とともに増えていくため、「眠れない」という訴えが増えてしまうのです。

 年をとると必要な睡眠時間が減っていく理由は何でしょうか? 睡眠時間を決めるには2つの要素があります。1つは「恒常性維持」で、体を一定の状態に保つ機能で、体や脳が疲れたら眠って疲れをとるものです。年をとると生活の負荷が減り、活動量が減ることに伴って必要な睡眠量が少なくなるわけです。

 もう1つの機能は「体内時計」で、生体リズムとも呼ばれ、1日の生活パターンに合わせて、自律神経活動やホルモン分泌などの生体調整機能を適正化する役割を担っています。この体内時計の周期は、加齢とともに少しずつ短くなります。そのため、若い頃よりは早寝早起きのパターンになりやすいのです。また、加齢により、体内時計がつくり出す昼夜のメリハリも減少するため、眠りは浅く、途中で目が覚めやすくなるとともに、昼間に眠気が起きやすくなります。

 「早く眠りたい」「しっかり睡眠をとりたい」と思っている方ほど、眠気がなくても布団に入って、頑張って寝ようとします。しかし、これは逆効果なのです。布団の中に長くいると、実際に寝ている時間と起きている時間の区別がつきにくくなってしまいます。布団に入るのは寝るときだけにして、眠くなったら床に入る、睡眠時間=床上時間にするのがよいのです。

 私たちの毎日の生活の目的は、昼間の時間を楽しく有意義に過ごすことであって、眠ることではありません。昼間活動するために、体が要求するだけ心身を休めるのが睡眠なのです。たくさん眠れば健康になれるわけではありません。

健康メモ(31)「高FODMAP食と便秘」

 便秘を訴える患者さんを診る場合、最初に腫瘍性疾患や炎症性疾患を鑑別することが重要です。
具体的には、排便習慣の急激な変化、予期せぬ体重減少、血便、腹部腫瘤などの警告症状や50歳以上での発症、大腸疾患の既往歴や家族歴が危険因子です。
場合により、大腸内視鏡検査や血液検査が必要です。

 腹痛を伴う慢性便秘は便秘型の過敏性腸症候群であることが多く、小腸では分解・吸収されにくく、大腸で腸内細菌にて発酵・分解され、水素ガスやメタンガスなどを発生する短鎖炭水化物(FODMAP)で症状が増悪します。

F:fermentable(発酵性の)
O:oligosaccharides(オリゴ糖)
D:disaccharides(二糖類)
M:monosaccharides(単糖類)
A:and
P:polyols(ポリオール)


 代表的な高FODMAP食と低FODMAP食は、以下の通りです。


高FODMAP食品低FODMAP食品
フルーツりんご、梨、マンゴー、チェリー、イチジク、スイカ、ドライフルーツキウイフルーツ、バナナ、パイナップル、オレンジ、レモン、イチゴ
野菜ニラ、にんにく、ねぎ、玉ねぎ、さやえんどう、ごぼう、アスパラガスにんじん、ピーマン、カボチャ、きゅうり、ほうれん草、じゃがいも
シリアル・穀物類全粒粉パン、ライ麦パン、パスタ、シリアル米、玄米、そば、オートミール、コーンスターチ、タピオカ
豆類インゲン豆、そら豆
乳製品ソフトチーズ、クリームチーズ、ブルーチーズ、牛乳、ヨーグルトバター、マーガリン、モッツァレラチーズ、カマンベールチーズ
肉類加工肉(ソーセージ)、魚の缶詰肉類全般、魚介類全般
ナッツ類カシューナッツ、ピスタチオマカダミアナッツ、アーモンド、ピーナツ、くるみ
調味料・ソース類にんにくや玉ねぎ成分含有カレー粉、唐辛子、バジル

 FODMAP食品を大量に摂取すると程度の差はありますが、お腹の症状(腹痛・下痢・膨満感・ガス産生)が出ます。
特に過敏性腸症候群の方が、高FODMAP食を大量に摂取すると症状の悪化が出るため注意が必要です。

 では便秘に対する薬剤は何がよいのでしょうか。いまだに多く使われている刺激性下剤(アローゼン、プルゼニド、センナ)はその過剰摂取により、慢性的な腸管の弛緩や拡張を引き起こし、安全面が心配されます。
浸透圧性下剤の酸化マグネシウムは用量の調節がしやすく、習慣性がないことから頻用されています。
ただし、高齢者や腎機能障害のある方では高マグネシウム血症をきたす危険があります。

 酸化マグネシウムで効果が不十分な場合、新規下剤が使われます。

①アミティーザ®・・・妊婦・妊娠の可能性がある場合禁忌、副作用として若い女性の悪心あり。
②リンゼス®・・・粘膜下の内臓知覚神経の痛覚過敏を抑制して腹痛を改善。
グーフィス®・・・水分分泌促進、大腸蠕動運動促進、便意の促進のトリプル作用。

健康メモ(30)「睡眠薬について」 参考文献:「精神科の薬がわかる本 第4版」(姫井昭男 著)

 日本人を対象とした推計で、慢性的に「不眠」を経験している人は成人の20%に及ぶと言われています。近年では思春期から20歳代前半と高齢者の睡眠障害が増加しています。不眠の症状を改善するには睡眠薬を飲めばよいと安易に考えず、まず生活習慣を変えることが必要です。ベッドに入って数分眠れないだけで、すぐにスマートフォンをいじりがちですし、また眠くもないのにベッドに潜り込んで、眠れないまま悶々と過ごすのもお勧めできません。夕方以降にカフェインを摂ったり、熱すぎるシャワーを浴びたりするのも睡眠には不適切な行動です。


◆「眠れない」という訴え~原因による4分類

①環境因による不眠

 環境とは、温度、湿度、音、照度などだけではなく、交替勤務のような睡眠をとるタイミングの問題も含まれます。
超短時間作用型や短時間作用型の睡眠薬を選択し、毎日服用することは避けて週に1~2回程度とし、依存が起こらないようにします。

②心理的ストレスによる不眠

 現代社会では心理的ストレスによる不眠が増加しており、生活と表裏一体のためストレスを排除できない場合が多いのです。
そのようなケースでは、睡眠薬ではなく、抗不安薬や抗うつ薬の方が良い眠りの効果を示すこともあります。
長時間作用型の睡眠薬や、睡眠効果をもつ抗うつ薬を選択し、薬剤で治療する期間はできるだけ短期間になるようにします。

③メンタル障害に起因する不眠

統合失調症、気分障害、認知症、アルコール依存症など、多くの精神疾患で不眠がみられます。
治療により病状全体が安定しているかどうかを診る必要があります。
安定しているにもかかわらず、不眠のみが目立つ場合に睡眠薬を用います。
長時間作用型の睡眠薬を選択することが多いのですが、抗精神病薬、抗不安薬、抗うつ薬などで睡眠をコントロールする場合もあります。

④身体疾患に起因する不眠

 身体疾患の症状(呼吸困難、疼痛、発熱など)が原因となって不眠が引き起こされる場合があります。
まずは身体疾患の治療を優先的に行いますが、身体疾患のために服用している薬が不眠を引き起こしているケースもあります(利尿薬→頻尿、感冒薬→カフェイン、興奮薬→アンフェタミン、ステロイド製剤、喘息薬→エフェドリン、テオフィリン、甲状腺薬など)。こうした場合には個別対応で薬を選択します。


睡眠薬の作用時間を考慮し、ニーズに合う睡眠薬を選択する

 睡眠薬の作用時間は異なりますので、入眠困難・中途覚醒・早朝覚醒・睡眠覚醒リズム異常・熟睡感欠如というように症状を分類し、睡眠薬を区別して処方します。
ただし、ベンゾジアゼピン系睡眠薬は多かれ少なかれ筋弛緩効果をもつため、身体疾患の鑑別(睡眠時無呼吸症候群など)が必要です。

近年ではラメルテオン(ロゼレム🄬)、スボレキサント(ベルソムラ🄬)、レンボレキサント(デエビゴ🄬)のように、作用機序がベンゾジアゼピン系睡眠薬とは異なる睡眠薬が出ています。


睡眠薬の副作用

持ち越し(翌朝に寝ぼけの状態を引き起こす)

 特に長時間作用型の睡眠薬で起きやすいのですが、短時間作用型でも疾病や加齢により代謝機能が低下している場合は、持ち越し症状が認められます。

筋弛緩作用(転倒の危険を高める)

 ベンゾジアゼピン系睡眠薬は筋弛緩作用を有しており、服用後の移動の際に脚がもつれる・踏ん張れないなどで転倒する危険性があります。
特に高齢者に強く現れます。

反跳(リバウンド)性不眠(急に服薬を中止すると不眠になる)

 急に服薬を中止すると生体内でのリズムや恒常性に変化が生じるため、リバウンド現象として不眠を生じる場合があります。
予防対策は減量しながら止めることです。

アルコールとの相互作用(奇異反応や健忘を引き起こす)

 睡眠薬とアルコールとの併用は、事故や事件を引き起こすリスクが高く、危険です。
睡眠薬とアルコールを併用すると、数時間は過鎮静となるため眠ったような状態となりますが、これは睡眠ではありません。
数時間で覚醒した後、再度眠れることがあっても浅い眠りです。
また、半分覚醒しているような状態になると、不安・焦燥の症状が顕著に出現し、奇妙な反応を起こすことがあります(奇異反応)。
翌日はっきりと覚醒するまでの一切の記憶がないという健忘症状が現れることもあります。

健康メモ(29)糖尿病:食事アドバイス参考文献:「糖尿病診療ハンドブック 第5版」岩岡秀明、栗林伸一編

 食事療法が糖尿病の基本療法です。エネルギー摂取量は肥満があればエネルギー消費量を下回るようにし、目標体重に達していれば、その時々のエネルギー消費量に見合うものとします。糖尿病予備軍の方も参考にしてください。

◎目標体重(㎏)の目安

65歳未満身長(m) × 身長(m)× 22
65歳以上身長(m) × 身長(m)× 2299  22~25

◎身体活動レベルによるエネルギー係数の目安(kcal/kg目標体重)

軽い労作(大部分が座位の静的活動)25~30
普通の労作(座位中心だが通勤・家事、軽い運動を含む)30~35
重い労作(力仕事、活発な運動習慣がある)35~

◎総エネルギー摂取量(kcal/日)=目標体重(kg)×エネルギー係数(kcal/kg)となります

◎栄養摂取比率

・炭水化物 40~60%
・タンパク質 ~20% 高齢者は筋肉維持のため減らさない
・脂質 25%を超える場合は多価不飽和脂肪酸(植物や魚の脂に多く含まれる)を増やす


◎食事アドバイス10

①朝・昼・夜の3食は規則正しくきちんと食べる 
 ・朝食の欠食や夜遅い時間帯にとる夕食は1日の血糖変動を悪化させ、肥満になりやすい

②ゆっくりよく噛んで、腹八分目を心がける

③食べる順番を考えて、主食摂取までに10分以上かける

④糖質は「量」だけでなく「質」にも注目する 
 ・単純糖質はできるだけ避け、複合糖質は玄米や麦ごはん、全粒粉やライ麦パンなどを選ぶ

⑤野菜(いも類、かぼちゃは除く)・海藻・きのこをたくさん食べる

⑥揚げ物、ラーメン、カレー、洋食など油の多い料理の摂取頻度や量を減らす
 ・特に動物性脂肪(飽和脂肪酸)を多く含む食品は避ける

⑦アルコール、菓子類や果物の食べ過ぎに注意し、炭酸飲料やジュースなどは飲まない

⑧夏場はスポーツドリンクとアイス類、冬場はのど飴や甘酒、もち、干し柿、干し芋の摂取に注意する

⑨体重は毎日決まった時間に測定し記録する
 ・体重1㎏減少には6000~7000kcalのエネルギー消費が必要

⑩健康のために積極的にとっている偏った飲食物、サプリメントには頼らない

健康メモ(28)「寝ているとき、いびきがうるさく、時々息が止まると言われました」参考文献:「外来でよく診る病気スレスレな症例への生活処方箋」(浦島充佳著)

 昼間の眠気があり、首回りが大きい、血圧が高い、などがあれば、睡眠時無呼吸症候群を疑います。このような方は自宅で行える簡易SAS検査を行い、無呼吸低呼吸指数(AHI)を調べます。もしAHIが40以上あれば、CPAP(経鼻持続陽圧呼吸)による治療が保険適応となります。ではAHIがもっと少ないけれど、いびき、無呼吸がある人はどうすればよいでしょうか。

アルコールを飲まない日をなるべく多く作る(アルコールは睡眠時の無呼吸を悪化させます)
減量のチャレンジ(白米の替わりに麦飯・玄米・雑穀米をとる、おかわりもしない)
ジュース類を、水かお茶にする
週150分以上、歩く(1日平均30分歩く)
咽喉部の筋トレを行い、口笛を吹けるようにする(風船を膨らませる)

健康メモ(28)「外来でよく診る病気スレスレな症例への生活処方箋」

【筋機能療法】軟口蓋、舌、顔面筋を鍛え、顎の機能を整えるものです。
軟口蓋の訓練には母音を発音し続けるか、断続的に発します。
舌の運動には、舌で歯の周囲をなめたり、硬口蓋を舌先でなでたり、硬口蓋~軟口蓋にかけて舌全体で押し上げたり、舌で下の前歯の歯茎を強く圧迫します。
顔面筋は、口輪筋を使って口をすぼめたり、笑顔を作ったりします。
頬筋は、ストローで吸引したり、口の中に指を入れて頬筋や下顎を圧迫します。風船を膨らませるのも頬筋や顎の筋肉の訓練になります。
嚥下訓練では、歯は噛んだ状態、舌は動かさず固定、なるべく口腔の筋肉は使わず、水を咽頭の筋肉で飲み込む練習をします。

健康メモ(27)「後鼻漏による咳について」

 急性咳嗽のほとんどの原因はウイルス感染の急性上気道炎であり、咳嗽以外の症状として、発熱、鼻汁、くしゃみ、鼻閉、咽頭痛、嗄声、頭痛、耳痛、全身倦怠感などを伴います。上気道炎で口から喀出される分泌物を「痰」と訴える患者さんは多く、かかった医者から去痰薬(カルボシステインなど)を処方されている場合が多いようです。しかし、これは下気道からではなく、上気道(鼻腔、副鼻腔、上咽頭、上喉頭など)からの後鼻漏のうち、嚥下されなかったものです。後鼻漏は膿性(黄色)の場合も透明~薄い黄色粘液の場合もあります。

健康メモ(26)「自律訓練法について」

 「痰がからむ咳が出る」と訴える患者さんは多いのですが、実際には下気道から痰が出る気管支炎ではなく後鼻漏を併発している場合が多いのです。後鼻漏の主な原因は、副鼻腔炎、アレルギー性鼻炎、慢性鼻咽頭炎で、後鼻漏によって下咽頭の知覚神経が刺激されたり、気管への流入による刺激で咳が出るのです。
 風邪(急性上気道炎)のあと咳だけが続くという方は多く、咳止め(デキストロメトルファン)と去痰薬(カルボシステイン)を処方されたがよくならないという場合も多いのが実態です。それは風邪の治療を軽く見ている医師が多いせいだと思います。
 患者さんの話をよく訊き、抗菌薬、抗アレルギー薬、点鼻薬、鎮咳薬、漢方薬などを選択し、FeNO(呼気一酸化窒素濃度)の検査で高値の場合は喘息性の咳として吸入ステロイド薬を使います。アレルギー性鼻炎を伴わず喉頭にのみアレルギーが起こり、咳、咽喉頭異常感を訴える患者さんもいます。この喉頭アレルギーは季節性(花粉が主因)と通年性(ダニ、埃が主因)とがあります。また、コロナ(オミクロン株)感染後の咳嗽の中には、肥厚性鼻炎・気管支炎を基礎にアレルギー性鼻炎を持っている場合があり、点鼻ステロイド薬、抗アレルギー薬が有効な場合もあります。

健康メモ(26)「自律訓練法について」 参考文献:「心療内科的診療術」(大武陽一編)

 ストレスの多い生活をしている人は多く、ストレスに対処できずに疲労が蓄積し、心身の不調を感じる人も増えています。ストレスに晒されるといらだちや緊張、落ち込みなどを感じます。また。こわばり、口渇、動悸、手足の冷えなど身体にも様々な反応が現れます。このような身体反応は自律神経系、特に交感神経機能の亢進により引き起こされます。一方、副交感神経は交感神経亢進による興奮状態を弱め、休養に向ける役割を担っています。

自律訓練法では意図的に副交感神経優位のリラックス状態を作り出すことで自律神経機能の調整を目指します。

練習姿勢

健康メモ(26)「自律訓練法について」

標準公式

背景公式:気持ちが落ち着いている

第1公式:両手両足が重たい(重感練習)

第2公式:両手両足が温かい(温感練習)

第3公式:心臓が静かに規則正しく打つ(心臓調整練習)

第4公式:しぜんに楽に息をしている(呼吸調整練習)

第5公式:お腹が温かい(腹部温感練習)

第6公式:額が気持ちよく涼しい(額部涼感練習)

 心の中で公式を繰り返しながら言葉が表す状態を「感じる」練習です。第1公式は利き手側から順に「右手が重たい、左手が重たい、両手が重たい、右足が重たい、左足が重たい、両足が重たい(利き手が右の場合)」と練習します。第2公式も同様です。練習は積み上げ方式で、少しずつ公式を増やしていきます。背景公式は一番の基礎であり、頻繁に繰り返されるポイントの公式です。

5分(長くても15分)程度の練習を原則1日3回繰り返すのがコツです。朝夕2回の練習でも構いません。続けられるペースで地道に取り組むことが大切です。

健康メモ(25)「認知症のスクリーニングについて」

「最近物忘れが多い気がする」と自分で感じ、「もしかして認知症?」と自分で心配する場合の多くは問題ありません。一方、家族が心配する場合はしばしば問題があります。家族と一緒に受診しているとき、患者さんに質問すると家族の方を向いて助けを求める仕草をすることを「ヘッド・ターニング・サイン」と呼び、認知症を疑うサインと考えられています。

 一番簡単な認知症のスクリーニング検査は”Mini-Cog”です。2~3分ほどで実施できます。

STEP1:3つのことば(例えば、さくら、ねこ、電車)を復唱してもらう

STEP2:大きな〇を書いた紙と鉛筆を渡して、指定した時刻の時計(例えば、11時10分)を書き込んでもらう

STEP3:最初に言った3つのことばをもう一回復唱してもらう

★採点ルール

ことば:2回目の復唱で1つのことばにつき1点(max 3点)。
時計:すべての数字が正しい順番に書かれ、時計の針がおおむね正しい時刻を指していると2点(時計の針の長さは採点に影響しない)。
時計を正しく描写できない場合は0点。

★判定基準
・2点以下:認知障害  ・3点以下:認知のさらなる評価が必要

 認知症=いわゆる「物忘れ」(記憶障害)と思われがちですが、それだけではありません。認知症の特徴は、記憶障害以外に、さまざまな判断・計画する能力、空間・位置関係などをとらえる能力、読む・書く・話すなど言語能力が障害されることです。人格・個性や振る舞いの変化や障害もあります。その他の精神的な症状として、妄想・幻覚、抑うつ、無気力・無関心もあります。

 通院していても医師が認知症に気づいていない場合も多く、家族からの情報も重要です。

健康メモ(24)「高齢者の糖尿病コントロールの目標」

日本糖尿病学会による基本的な考え方は、
①血糖コントロール目標は患者の特徴や健康状態:年齢、認知機能、身体機能(ADL)、併発疾患、重症低血糖のリスク、余命などを考慮して個別に設定すること
②重症低血糖が危惧される場合は、目標下限値を設定し、より安全な治療を行うこと
③高齢者ではこれらの目標値や目標下限値を参考にしながらも、患者中心の個別性を重視した治療を行う観点から、目標値を下回る設定や上回る設定を柔軟に行うことを可能としたこととされています。

 治療目標は、年齢、罹病期間、低血糖の危険性、サポート体制などに加え、高齢者では認知機能や基本的ADL、手段的ADL、併存疾患なども考慮して個別に設定します。ただし、加齢に伴って重症低血糖の危険性が高くなることに十分注意します。

◎高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)

この表で示されているカテゴリーは以下の8つの質問の合計点数で決定します。

◎認知・生活機能質問票(DASC-8)

カテゴリーⅠ:10 点以下  カテゴリーⅡ: 11-16 点  カテゴリーⅢ:17 点以上

健康メモ(23)「機能性消化管障害について」 参考文献:「心療内科的診療術」(大武陽一編著)

 消化管由来の症状と考えられるものの、一般的な検査で原因となる要因がみつからない病態を「機能性消化管障害」と呼び、代表的疾患として過敏性腸症候群機能性ディスペプシアが挙げられます。過敏性腸症候群は慢性的な腹痛と便通異常を呈し、排便回数や便の形状から下痢型、便秘型、混合型などに分類されます。機能性ディスペプシアは心窩部痛や食後のもたれ感、早期満腹感など上部消化管症状を呈するもので、症状により心窩部痛症候群と食後愁訴症候群に大別されます。過敏性腸症候群機能性ディスペプシアは消化管疾患全体に占める割合が大きく、精神症状・疾患の合併も多いため、良性ではあるものの生活の質(QOL)が著しく低下します。

 これらの疾患を理解し、治療戦略を立てるためにしばしば用いられるのが、「生物―心理―社会モデル」です。

 過敏性腸症候群機能性ディスペプシアに対して、第1段階では消化管運動機能改善薬や整腸剤、止痢剤や下剤、漢方薬などを処方し、食事指導や生活習慣改善の指導を行います。それで改善が不十分な場合は第2段階として、ストレス状況や心理的異常があるかを判断し、不安や抑うつ気分について聞きとります。場合により抗不安薬や抗うつ薬、漢方薬を用います。薬物療法が無効な場合は認知行動療法などの専門的な心理療法も検討します。

健康メモ(22)「重症の気管支喘息に対する生物学的製剤について」

 気管支喘息の治療は進歩しており、様々な吸入薬が使えるようになりました。しかし、それでもコントロールが不十分で、ときにステロイドを服用して症状をおさえている方もいらっしゃいます。そのような患者さんへの朗報として、生物学的製剤が何種類か出ています。今までは喘息のせいで生活や仕事に支障があった方が新しい薬を使うようになって劇的に改善する場合もあります。

 現在日本で使える保険適応のある生物学的製剤は5剤です。

薬品名
ゾレア
ヌーカラ
ファセンラ
デュピクセント
テゼスパイア
作用機序
抗IgE抗体
抗IL-5抗体
抗IL-5受容体抗体
抗IL-4受容体抗体
抗TSLP抗体
投与対象
アトピー型
血中好酸球↑
血中好酸球↑

血中好酸球↑

呼気NO ↑

重症喘息
併存症への適応

慢性蕁麻疹

季節性アレルギー性鼻炎

好酸球性多発血

管炎性肉芽腫症


アトピー性皮膚炎

慢性副鼻腔炎


自己注射



 検査所見や併存症を検討してどの薬剤を使用するか判断します。4週間毎(デュピクセントは2週間毎)に注射をするのですが、在宅自己注射ができる薬剤もあります。問題は高価である点で、公害や大気汚染の公的補助や健康保険組合からの付加給付がある場合はよいのですが、それらがない場合は高額療養費制度を利用します。詳細については診療時に相談させてください。

健康メモ(21)「倦怠感(疲れやすい)を漢方薬で治療する」 参考文献:「東洋医学診療に自信がつく本」(長瀬眞彦)

 全身倦怠感を病因的に分類すると、①身体疾患(慢性感染症、膠原病、心不全・腎不全などの臓器不全、睡眠時無呼吸症候群、内分泌疾患、神経疾患など)、②精神疾患(うつ病、うつ状態など)、③心配状態(何か病気が隠れているのではないかと心配している状態)、④過労(疲れて当然と思われる状況)、⑤原因不明の慢性疲労になります。検査で異常所見が見いだされる場合は診断に結びつきやすいのですが、実際には内科的疾患と診断されるケースは少ないのです。そのような場合、漢方薬を処方することが多いのです。

 漢方薬の使い方の基本として、「気・血・水(津液)」について説明します。気(き)は生命エネルギーを意味し、病理として、気が足りない「気虚(ききょ)」と気の流れが滞っている「気滞(きたい)」の2つに分類されます。「気虚」ではエネルギー不足で元気がなくなって疲れやすくなり「気滞」ではイライラしたり、落ち込みやすくなったり、ストレスに弱くなります肉体的労作によって悪化する症状「気虚」で、精神的労作によって悪化する症状「気滞」です。「気滞」では日内変動や季節性の変動がみられます。

 血(けつ)は血液に加えて筋肉や腱を柔軟にする作用や、精神安定作用、意識を保持する作用、皮膚を潤す作用、月経を順調に巡らせる作用を意味します。病理としては血が足りない「血虚(けっきょ)」と血が滞っている「瘀血(おけつ)」の2種類があります。「血虚」では足がつる・ぎっくり腰・皮膚の乾燥など血の潤滑作用の失調による症状や、落ち込みや易怒性などの精神安定作用の失調による症状、過眠や不眠などの意識を保持する作用の失調による症状がみられます。「瘀血」とは血の循環障害で、下肢静脈瘤や痔、子宮筋腫、更年期障害などの症状です。

 水(すい)津液(しんえき)とも言われ、血液以外の体液(リンパ液、組織間液、胃液などの消化液、尿、鼻汁など)の総称です。「津液不足」では乾燥性咳嗽が、「水毒(津液停滞)」では浮腫がみられます。水が消化不良や炎症性変化などで粘稠性の高い病理産物に変化したものを「痰飲」と呼びます。また、「津液不足」では熱症状を伴うことが多く、その病態は「陰虚」と呼ばれ、「陰虚」の熱症状がより目立つ場合は「虚熱」と呼ばれます。

 倦怠感を漢方薬で治療する場合、「気虚」が原因とされ六君子湯補中益気湯が使われることが多いようです。しかし、実際には「気滞」が原因になっていることも多く、この場合は柴胡剤を用います。含まれている柴胡に自律神経失調状態や精神神経症状の改善が期待できる柴胡加竜骨牡蛎湯四逆散柴胡桂枝乾姜湯抑肝散などが用いられます。疲れやすいという症状は、「血虚」「気血両虚」「水毒(津液停滞)」でも起こり得ます。「血虚」に対しては四物湯「気血両虚」には十全大補湯「水毒」には五苓散を用います。「水毒」で起こる倦怠感は低気圧が来たり、雨が降る、また梅雨の時期に強くなるという特徴があります。

健康メモ(20)「脂質異常症の治療について」

 健康診断などでコレステロールや中性脂肪(トリグリセリド)が高いと言われた方は多いと思います。
基本的に、脂質異常症の治療は、食事療法、運動療法、禁煙、適正体重化といった非薬物療法です。
治療の目的は、冠動脈疾患や脳血管疾患といった心血管疾患を予防し、生命予後を改善することですが、どのような場合に薬物療法が必要になるのでしょうか。

 脂質異常症と診断されたとき、まず冠動脈疾患や脳梗塞の既往を確認し、いずれかがある場合には二次予防として薬物療法の対象となります。
これらの疾患はないが基礎疾患として、糖尿病、慢性腎臓病(CKD)、末梢動脈疾患(PAD)がある場合、高リスク群になるため薬物療法を検討します。
これらの基礎疾患がない場合、動脈硬化性疾患の予測モデルで高リスク群に入るかどうか検討します。
性別(男性)、血圧、糖代謝異常、LDL-コレステロール値、HDL-コレステロール値、喫煙からポイントを計算します。

 家族性高コレステロール血症の方は日本で約300人に1人いるとされ、冠動脈疾患のリスクが非常に高いため注意が必要です。

①LDL-コレステロール値が180mg/dL以上、
②家族歴
③腱黄色腫(手背、肘、膝などまたはアキレス腱肥厚)

のうち2つ以上当てはまれば家族性高コレステロール血症と診断され、早期治療が必要です。

 高トリグリセリド(TG)血症(>1,000mg/dL)でTG血症誘発性膵炎が15~20%という高率で発症するため、TG>500mg/dLを目安として食事制限・禁酒の生活指導と、それで改善しないなら薬物療法が必要となります。
TG低下による動脈硬化性疾患リスク低下の有効性は実際には確立されていませんが、高TG血症かつ低HDL-コレステロール血症では、TG低下療法が推奨されています。

健康メモ(19)「風邪の診療について」 参考文献:「かぜ診療マニュアル」(山本舜悟編著)

風邪の症状で受診される方はたくさんいます。
風邪を真剣に診ない医者ほどいわゆる総合感冒薬を処方しているように思います。
風邪を甘く見てはいけません。風邪と言っても色々あることを説明します。

1.咳、鼻、のど型(普通感冒

 咳、鼻、のどの症状が同時に、同程度存在する状態で、普通感冒と呼ばれます。
多くはウイルス感染症で、ライノウイルスによるものが最多です。
まず微熱や倦怠感、咽頭痛、特に鼻の奥から喉の上あたりがイガイガする、痛熱い感じから始まり、1~2日遅れて鼻汁や鼻閉が起こり、咳、痰が出てきます。
3日目前後に症状のピークがあり、7~10日くらいでよくなっていきますが、一部の症状は3週間ほど続くこともあります。

2.鼻型(急性鼻・副鼻腔炎)

 くしゃみ、鼻水、鼻閉が主症状のタイプで、発熱の有無は問いません。
鼻水が黄色くなるのは白血球のせいで、ウイルス性でも黄色になります。
細菌性副鼻腔炎は上気道炎にかかって一旦少し良くなって7~10日後に再び悪化してくるパターンで発症します。
症状(上顎洞痛、顔・歯の痛み)と膿性鼻汁が7日以上続いている場合は細菌感染を示唆します。
非常に強い片側性の頬部の痛み・腫脹、発熱がある場合は症状の持続期間によらず細菌感染を疑います。

3.のど型(急性咽頭・扁桃炎)

喉の痛みを主症状とするタイプで、大半はウイルス性で、細菌性は全体の10%程度(小児では15~30%)と言われています。
口を開けない、唾液を飲み込めないほどの痛みがある場合は要注意で、急性喉頭蓋炎と扁桃周囲膿瘍を疑う必要があります。
急性喉頭蓋炎では喉の所見が軽微であるにもかかわらず咽頭痛が強いという特徴があります。
またEBウイルスによる伝染性単核症も鑑別が必要です。
採血をして白血球の分画をみてリンパ球が35%以上あれば疑います。

①38℃以上の発熱
②咳がない
③圧痛を伴う前頸部リンパ節腫脹
④白苔を伴う扁桃炎
⑤14歳以下

のうち3つあれば約40%、4つあれば55%でA群溶連菌感染と言われています。
アデノウイルスによる咽頭炎は、大部分が小児に起こりますが、小児との接触で稀に成人も罹患します。

4.咳型(急性気管支炎)

 咳が主症状で、発熱や痰は問いません。
頻度としては上気道炎、急性気管支炎、肺炎が多いのですが、心不全や肺塞栓でも咳が出ることがあります。
咳に加えて呼吸困難、低酸素血症を伴っていたら気管支炎と簡単に片付けるべきではありません。

急性気道感染による咳は2~3週間続くことが少なくありません。
3週間以上咳が続く場合、後鼻漏(鼻汁が喉に垂れ込んで咳が出る)、咳喘息(夜間から明け方に咳が悪化しやすい)、胃食道逆流(臥位での増悪、起床時の口の苦み・酸味)、百日咳(咳嗽後の嘔吐、吸気時の笛声)などを考えます。

5.高熱のみ型

 突然の発熱が主症状で、局所症状(鼻汁、咽頭痛、咳、腹痛、下痢、頭痛)がほとんどない場合です。

①敗血症
②マラリア、リケッチアなどの渡航関連
③インフルエンザやその他のウイルス感染症

に分類できますが、圧倒的に多いのは③ウイルス感染症です。
気道症状がないので「上気道炎」と診断できません。
緊急性を要する状態かどうかを判断する必要があります。

健康メモ(18)「フレイルとサルコペニアについて」

最近よく聞く言葉に「フレイル」というものがありますね。それを説明すると、「加齢に伴う症候群(老年症候群)として、多臓器にわたる生理的機能低下やホメオスターシス(恒常性)低下により、種々のストレスに対して身体機能障害や健康障害を起こしやすい状態」ということになります。

フレイルの診断に用いられる日本の基準があります。

項目評価基準
1.体重減少
6か月で、2kg以上の(意図しない)体重減少
2.筋力低下
握力:男性<28kg、女性<18kg
3.疲労感
(ここ2週間)わけもなく疲れたような感じがする
4.歩行速度
通常歩行速度<1.0m/秒
5.身体活動
①軽い運動・体操をしていますか?
②定期的な運動・スポーツをしていますか?
上記の2つのいずれも「週に1回もしていない」

3項目以上該当:フレイル 1-2項目該当:プレフレイル 該当なし:健常

加齢とともに骨格筋は減少し、筋力や身体機能は低下します。「筋量と筋力の進行性かつ全身性の減少に特徴づけられる症候群で、身体機能障害、QOL低下、死のリスクを伴うもの」をサルコペニアと呼びます。サルコペニアの診断基準があります。

内容質問スコア
1.握力
4~5kgのものを持ち上げて運ぶのがどのくらいたいへんですかまったくたいへんではない=0
少したいへん=1
とてもたいへん、またはまったくできない=2

2.歩行
部屋の中を歩くのがどのくらいたいへんですかまったくたいへんではない=0
少したいへん=1
とてもたいへん、補助具を使えば歩ける、またはまったく歩けない=2
3.椅子から立ち上がる
椅子やベッドから移動するのがどのくらいたいへんですかまったくたいへんではない=0
少したいへん=1
とてもたいへん、または助けてもらわないと移動できない=2
4.階段を昇る
階段を10段昇るのがどのくらいたいへんですかまったくたいへんではない=0
少したいへん=1
とてもたいへん、または昇れない=2
5.転倒
この1年間で何回転倒しましたかない=0
1~3回=1
4回以上=2
6.下腿周囲長

男:≧34cm=0、<34cm=10
女:≧33cm=0、<33cm=10

1~5の項目で≧4点または1~6の項目で≧11点で、サルコペニア疑いとして抽出する。
さらに、握力:男性<28kg、女性<18kgまたは5回椅子立ち上がりテスト≧12秒でサルコペニアを疑う。

フレイルの患者さんでは、フレイルに寄与するような疾患(心不全、関節リウマチなど)で治療可能なものを見つけて治療し、運動療法をすることが大切です。また、フレイルの患者さんでは、うつ病の有病率が高いと報告されており、うつ病のスクリーニング、治療が重要です。

健康メモ(17)「自律神経を安定させる呼吸法について」参考文献:「自律神経最新1分体操大全」(小林弘幸)

緊張や不安を感じたとき、呼吸は無意識のうちに浅く速くなり、自律神経のバランスが乱れます。こうしたときは、息を「ゆっくり吐く呼吸」がおすすめです。そのやり方を説明します。

①両足を肩幅に開き、両手で三角形を作って、中指の先を丹田(へその下5センチくらい)にあてます。

②背すじを伸ばして胸を張り、鼻からゆっくり、3~4秒かけて、三角形の頂点(中指)に空気を送り込むイメージで息を吸います。

③口をすぼめ、おなかの空気を出し切るように、ゆっくり6〜8秒かけて息を吐きます。

②と③を5回繰り返します。

ゆっくり吐く呼吸

「背伸び深呼吸」も、硬くなった肩甲骨周囲がほぐれて自律神経が整うのでおすすめです。

背伸び深呼吸

両足を肩幅に開き、背すじを伸ばしてまっすぐ立ちます。

②両腕を高く上げ、頭の上で手を重ね、息を吸いながら、かかとを上げて全身を上にしっかり伸ばします。 

③息を吐きながら、手のひらは外側に向けて両腕を横に大きく回すようにして下ろし、最初の姿勢に戻ります。  

②と③を5回繰り返します。


コロナ禍でのストレスやコロナ罹患後の後遺症で自律神経の乱れが起きている人が多くいます。「ゆっくり呼吸」は副交感神経(心身の働きをリラックスさせる自律神経)を高めるのに効果的ですが、「ゆっくり呼吸」をする余裕がないときにおすすめなのが「ため息」です。なるべく長く「ハァー」と吐くとより効果的です。

健康メモ(16)「内臓脂肪を減らすには」 参考文献:「内臓脂肪を最速で落とす」(奥田昌子)

男性に多い「内臓脂肪」(リンゴ型肥満)と女性に多い「皮下脂肪」(洋ナシ型肥満)の違いがわかりますか?

①内臓脂肪が蓄積した体型

おなかを中心に胸や肩など上半身にたっぷり付きます。
脂肪を減らしにくく、血圧、血糖、コレステロールなど複数のリスクを抱えやすいのです。
内臓脂肪はお腹の中で内臓を吊り下げる働きをしている腸間膜に付きます。


②皮下脂肪が蓄積した体型  

主に女性の腰から太ももにかけて付きます。
男性にも皮下脂肪は付きますし、女性も閉経をむかえると内臓脂肪が増えます。
脂質も血圧も血糖も基準値以内で、他に目立った問題がなければ肥満が悪いわけではありません。


 脂肪細胞1個1個の中に中性脂肪の形でエネルギーが蓄えられており、内臓脂肪がたまると腹囲が大きくなります。
これを式で表すと、腹囲1センチ=内臓脂肪1キログラム=7000キロカロリー

 毎日70キロカロリー多く摂取するだけで、100日で腹囲は1センチ増えることになります。
逆に多めによそっていたご飯を普通盛りにするだけで、100日で腹囲は1センチ減るのです。
体の脂肪が減らない人の問題は、脂肪だけでなく炭水化物を摂りすぎていることです。摂りすぎたブドウ糖はグリコーゲンとして筋肉や肝臓に蓄えられ、エネルギー源として使われるため、脂肪が消費されにくいのです。

 脂肪がほとんど入っていないのに脂肪を増やす食品として、果物とアルコールがあります。果物の糖分には、ブドウ糖、果糖、ショ糖の三種類があり、果糖は肝臓に吸収されて中性脂肪に変わるうえに、血糖値を高めないので脳に満腹シグナルが送られず、食べ過ぎてしまいます。アルコールにもカロリーがあり、飲みすぎると内臓脂肪が付きます。またアルコールは食欲を高め、内臓脂肪の蓄積を促すホルモンを分泌させます。血液検査で中性脂肪の高い人は、アルコールの飲みすぎ、果物やお菓子の摂りすぎである場合が多いようです。

 中性脂肪を減らし、内臓脂肪を付きにくくする代表的食品は魚です。特に背中の青い魚(ブリ、サバ、サワラ、イワシ、サンマなど)には不飽和脂肪酸であるEPA(エイコサペンタエン酸)とDHA(ドコサヘキサエン酸)が豊富で、この二つは中性脂肪を減らします。

 そして運動です。息がはずむ程度の運動を30分間、週に5日以上行う、もしくは、1日の歩数をそれまでより3000歩増やす(これは30分の歩行に相当する)ことが推奨されています。体重60キロの人がジョギングなどの有酸素運動を30分間行うと90キロカロリー使います。運動によって消費するエネルギーは、同じ運動をしても体重の重い人ほど多いです。

健康メモ(15)「免疫力を強くするには」 参考文献:「免疫力を強くする」(宮坂昌之)、「免疫力の話」(石原新菜)

 感染症とは、病原体(細菌、ウイルス、真菌など)によってもたらされる病気です。
私たちの体には、病原体の侵入や拡散を防ぐ様々な仕組みがあるため、簡単には感染症にかかりません。
外部から体を守っているのが免疫というシステムです。

 物理的バリアー(皮膚の角質、気道や腸管の粘膜、口の中の唾液など)、バリアーに含まれる殺菌性の物質(化学的バリアー)、白血球が殺菌性物質を放出したり、病原体を食べたりする細胞性バリアーを合わせて「自然免疫機構」といいます。
これは生まれつき体に備わっている免疫機構で、病原体が体に入ってくると最初に働くシステムですが、一度入ってきた病原体を覚えていない(学習効果がない)という特徴があります。

 これに加えて、生後に獲得される「獲得免疫機構」という仕組みがあります。
自然免疫機構を突破した病原体に対して白血球の中でも特にリンパ球が主体となり抗体などを用いることで病原体を排除します。
獲得免疫機構の特徴は、一度出会った病原体を覚えていて、その病原体を選択的にやっつけることができるということです。

 免疫力アップについて考える際難しいのは、免疫力は簡単に測定できないということです。
ですから何が免疫力を強くするのか、簡単には論じられません。科学的に確かな免疫力増強法は「ワクチン接種」です。
それ以外の方法として、血液系やリンパ系の細胞の往来を速やかにすることが重要です。
できればストレスがかからない形で、血流、リンパ流を良くするのがいいのです。

(1)体に休息を与える

 疲れが溜まると免疫力が低下します。無理に運動の時間などを入れていくと、交感神経が働きすぎるため免疫細胞の働きも落ちてきます。
大切なのは、適度な休息をとり、だらだら過ごす時間をとることです。

(2)空腹を感じるまでは食べない

 食事は3食きちんと食べることが推奨されていますが、あまりお腹が空いていないのに「時間になったから」という理由で食事をとることは体にいいことではありません。
免疫細胞である白血球は、満腹状態では活発に働きません。
朝食や昼食の時間が決められている場合は、食べる量を調整して、食べすぎにならないようにします。

(3)40℃のお湯に10分つかる

 免疫力を上げるには、体を温めることが大切です。食事やストレスに注意し、体を冷やさないように気をつけます。
42℃以上の熱すぎるお湯に首までつかっていると、心臓や血管に負担がかかってしまいます。
ぬるめのお湯につかって、リラックスするのが効果的です。炭酸ガス入り入浴剤を使うと血行が促進されます。

(4)7時間寝る

 睡眠時間が6時間未満の人は、7時間以上の人と比べて、風邪をひく確率が4.2倍という報告があります。
睡眠時間が短いと自律神経が乱れ、免疫機能に悪影響が出るのです。
また、睡眠時間は長すぎても、自律神経が乱れて免疫力の低下を招くようです。
成長ホルモンは午後10時から午前2時までの間の睡眠中に最も多く分泌されます。
その時間に眠ることで、傷ついた細胞を修復して、免疫力を高めるとともに、肌や髪を再生すると言われています。

(5)しょうが紅茶を飲む

 しょうがに含まれる辛味成分(ジンゲロール)は末梢の血管を拡張させ、血流をよくします。
すると基礎代謝が上がって体温が上がります。まずカップに紅茶を入れ、おろし金ですりおろしたしょうがを小さじ1~2杯加えます。
黒砂糖かはちみつを入れると味がよくなります。しょうがをすりおろすのが面倒であれば、市販のチューブ入りでも構いません。
しょうが紅茶には、体を温める作用と利尿作用があり、便秘、頭痛、肩こりにも効果があるようです。

健康メモ(14)「氣の呼吸法について」 参考文献:「氣の呼吸法」(藤平光一)、「姿勢と呼吸の整え方」(藤平信一)

健康メモ(14)「氣の呼吸法について」

 あなたは普段、どんな呼吸をしているでしょうか。多くの人は無自覚に呼吸をしているものです。しかし、呼吸には心の状態が表れているので、体調が優れない場合を除き、荒い呼吸、浅い呼吸になっているときは、心の状態が乱れているということです。力みなく息を吐けると、吸うときも自然に力みなく、深く吸えるようになります。感情を直接コントロールすることはできませんが、日ごろから、心地よい呼吸を体に覚えさせておくと、感情が乱れたときに同じ呼吸をすることで、感情に振り回されることがなくなっていきます。

1. 姿勢の確認 

肩を上下して、一番楽に肩を上下できる位置を探します。リラックスしてから手を太ももの上に軽く置きます。体に余分な力が入っておらず、ふわっとしていて安定しています。「胸を張った姿勢」や「猫背の状態」にならないようにします。


2. 息の吐き方

 「あ」と音を発する口の形で、「ハー」と息を吐きます。目の前に息を吐くのではなく、遠くまでまっすぐに届くようにイメージして吐きます。体の中から自然に息が出て行くようにすればよいのです。吐く息は徐々に少なくなり、無限小に静まっていきます。その間、口は閉じずに開けたままにしておきます。無理に吐こうとか、吐き切ろうとせず、自然に任せます。

3. 息の吸い方

 吐く息が十分に静まったら、口を閉じて、今度は鼻先から静かに吸います。たくさん吸おうとしたり、吸う息をコントロールしようとすると、苦しくなってしまいます。吸った息が足先から入って、脚、腰、胸、頭と徐々に満たされるイメージを持つと楽に吸うことができます。静かに吸って、吸う息をそのままに任せておくと、吸う息も無限小に静まっていきます。吸う息が十分に静まったら口を開けて吐き始めます。

4. 出づるに任せ、入るに任す

 吐く息と吸う息を繰り返す段階になると、自然に「任せる」ということを忘れて、意識して息を止めてしまうことがあります。自分で呼吸をコントロールしようとすると、体に余分な力が入ってしまい、呼吸が苦しくなって長続きしません。苦しくなる時は、たいていは姿勢が乱れているので、いったんやめて姿勢を確認します。通常の呼吸と同様に、呼吸していることを忘れてしまうようであれば、言うことはありません。

5. まずは一日15分から

 「氣の呼吸法」をまずは一日15分くらいから初めてみましょう。そして少なくとも二週間は続けてください。深い呼吸が身についてくると、日常の呼吸も深まる実感が得られます。自分の気持ちの持ち方で、いくらでも「氣の呼吸法」をする時間は作れます。

健康メモ(13)「がんの予防について(2)」(参考文献「がん予防の教科書」浅香正博著)

◎肺がん
 肺がんはわが国で死亡者数が最も多いがんであり、喫煙が大きな原因であることは明白です。
タバコの煙には多くの発がん物質が含まれており、肺がんの相対リスクは非喫煙者に比べて男性で4.4倍、女性では2.8倍(日本人の疫学調査)です。
自分でタバコを吸わなくても、受動喫煙で肺がんリスクが上昇することも証明されています。生活習慣由来のがんの中で、原因がこれほどはっきりしているのは肺がん以外にありません。

肺がんの年齢調整死亡率は1995年をピークにしてゆっくりと減少しています。喫煙開始から肺がん発症まで20年以上かかるので、喫煙率の減少の効果が出てきているものと思われます。

 日本では40歳以上の人に胸部X線検査で肺がん検診を行っていますが、近年X線よりCT検査の方が優れていることが明らかになってきています。

◎大腸がん
 大腸がんになりやすいのは65歳以上の高齢者で、肥満傾向があって運動不足、食生活が肉食中心で野菜や果物をあまり摂らない、大腸にポリープがある、家族歴、大量のアルコール摂取や喫煙者と言われています。日本人を対象とした検討によると、大腸がんのリスクを下げる要因で確実なものは運動、リスクを上昇させる要因で確実なのは基準以上のアルコール摂取、リスク上昇の可能性ありが動物性脂肪と喫煙でした。ただ、運動不足は大腸がんの中でも結腸がんと強い関連性がありますが、直腸がんとはあまり関連性がないようです。

 大腸がん検診は便潜血検査で、陽性の場合は内視鏡検査を受けてください。便潜血検査が陰性でも大腸がんであるケースが稀にあるため、便潜血陰性でも5年に1回くらい内視鏡検査を推奨します。

◎膵臓がん
 膵臓がんは1980年代になってから死亡者数が増加しており、2012年には肝臓がんを抜きわが国の死亡原因の四位になりました。膵臓がんの発生を高めるリスクとして、糖尿病、肥満、飲酒や喫煙などが挙げられます。また、慢性膵炎、膵管内乳頭粘液腫瘍(IPMN)の既往を持つ人や、家族歴のある人です。膵臓がんの診断は難しく有効と判断されている検診はありません。腹部超音波検査、CT、MRIなどで診断しますが、近年MRCP(MRIを用いて胆管、膵管を描出)ができるようになったので、リスクの高い人に推奨できます。

◎食道がん
 我が国の食道がんの大半は扁平上皮がんで、その原因は喫煙とアルコールにほぼ限定できます。禁煙と飲酒量の適正化でわが国の食道がんの約90%は予防可能です。飲酒量が多くないにもかかわらず食道がんになった人は、アセトアルデヒド脱水素酵素にヘテロタイプの変異のある方(酒を飲むとすぐ顔が赤くなる人)です。そのような方は飲酒しないように努めてください。

◎乳がん
 2020年の乳がんによる死亡者数は女性の場合、大腸、肺、膵臓についで四位でした。我が国の乳がん罹患率が1970年代に比べ6倍近くも上昇しており、死亡率も上昇しています。乳がんのハイリスクグループ群ではエストロゲン(女性ホルモン)の影響が強く出ています。①初経が早い、②閉経が遅い、③妊娠、出産経験がない、④授乳経験がない、⑤閉経後、肥満傾向があり、運動不足を伴う、⑥母親や姉妹に乳がんになった人がいる、⑦アルコール過剰摂取、がハイリスクと言われています。

 乳がんの予防として、閉経後は肥満にならないように食事に注意し、タバコ、アルコールを控え、運動をすることが大切です。大豆製品を多く摂取することも有効です。しかし、そのような一次予防だけでは限界があるため、公的に行われている検診(マンモグラフィーなど)を積極的に受けてください。

◎前立腺がん
 高齢の男性に多くみられるがんで罹患数では男性の一位です。我が国での増加は生活習慣と関連していると言われていますが、明らかな危険因子は高齢と家族歴で、喫煙と肥満は危険度を増加させるようです。リスクを下げる要因として、運動、リコピン(トマトに多く含まれる)、イソフラボン(大豆に多く含まれる)の摂取があります。公的検診に採用されていませんが、60歳を過ぎたら定期的に血液でPSA検査を行うことを推奨します。

◎子宮頸がん
 子宮がんには子宮頸がんと子宮体がんがあり、子宮頸がんの原因のほとんどがパピローマウイルスであることが明らかにされています。子宮体がんは生活習慣由来のがんで、肥満との関りが指摘されています。子宮頸がんの発生年齢は他のがんと異なり30~40代にピークがあります。

 人に感染するパピローマウイルスは100種類以上が特定されており、30~40種類が性的接触によって感染すると言われています。これらのうち約15種類が発がん性を持ち、特に16型と18型の二つが約70%の子宮頸がんから検出されています。子宮頸がんのワクチンには16型と18型の感染を予防する2価ワクチン、それらに尖圭コンジローマ(イボ)の原因となる6型と11型の予防効果を加えた4価ワクチンがあり、公的接種の対象となっています。最近接種可能となった9 価ワクチンは、6/11/16/18/31/33/45/52/58 の 9つの型の感染を予防しますが、これらの型のうち 16/18/ 31/ 33/ 45/52/58 の 7つの型は、子宮頸がんのみならず、女性の腟がんや男女ともに外陰がん、肛門がん、中咽頭がんなどの原因となります 。

 HPVワクチンの接種が最も重要な予防法ですが、厚労省は20歳以上の女性に対して2年に一度の検診(子宮の入り口部分の粘膜細胞を採取する検診)を推奨しています。

◎肝細胞がん
 肝がんには肝臓から活性する肝細胞がんと胆管から発生する胆管細胞がんがあります。肝細胞がんの原因として最も重要なのは肝炎ウイルスの持続感染で、通常は慢性肝炎を経て線維化の進んだ肝硬変から発生します。B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)の検査を行い、陽性であれば医療機関の受診が必要です。アルコール性肝障害や肥満、糖尿病、脂質異常症などが原因の非アルコール性脂肪肝炎から肝硬変や肝細胞がんに進行することもありますので、注意が必要です。

◎胃がん
 胃がんの大半が生活習慣病ではなく、ピロリ菌で発症する感染症であることがわかってきました。若いうちにピロリ菌の検査を施行し、陽性者は直ちに除菌を行うことで胃がんの発生を抑制できます。大田区では新成人を対象に無料でピロリ菌検査を行いますが、通常は保険適応で検査や除菌を行う場合、胃の内視鏡検査を受ける必要があります。また、内視鏡検査で萎縮性胃炎がある場合は、除菌成功後も1~2年に1回は内視鏡検査を推奨します。

健康メモ(12)「脂質異常症と動脈硬化」

 脳出血の発症率は下がりましたが、代わって脳梗塞が増えています。
脳出血は高血圧が主な原因ですが、脳梗塞は背景に動脈硬化があって脳の血管がふさがり、血液が十分に流れなくなることで起こります。
肥満、高血糖、高血圧、そして脂質異常症が動脈硬化の原因になります。
 脂質異常症はコレステロール(悪玉LDL善玉HDL)と中性脂肪の異常値で診断します。

 コレステロールという物質は1種類しか存在せず、悪玉と善玉の2種類があるわけではありません。
コレステロールは水に溶けないので、そのままでは血液中を流れることができず、LDLやHDLと呼ばれるカプセルのような乗り物に乗って血液中を運ばれます。
LDLは、主に肝臓でつくられたコレステロールを全身に運ぶ「運送トラック」のような役割を、HDLは、余分なコレステロールを回収して肝臓に戻す「清掃トラック」の役割を果たしています。
どちらも大切な栄養素であるコレステロールを全身に行き渡らせるために重要な役割を担っているのです。
最近の研究から、動脈硬化を起こすのは悪玉LDLそのものではなく、悪玉LDLが酸化してできる酸化LDLだとわかりました。
中性脂肪には悪玉LDLを小粒にして酸化されやすくする働きがあります。

 コレステロールの70~80%は体内で合成されますので、大切なのはコレステロールを含む食品の摂取を制限することではなく、コレステロールの合成を促す食品を避けることです。
その代表が飽和脂肪酸(炭素間の二重結合がない)で、その逆に合成を促さないのが不飽和脂肪酸(炭素間の二重結合がある)です。
ただし飽和脂肪酸の摂取量が少なすぎると脳出血が起きやすくなるためバランスが必要です。
 不飽和脂肪酸で動脈硬化を防ぐものにEPA(エイコサペンタエン酸)DHA(ドコサヘキサエン酸)があります。
EPAとDHAは魚、とくにアジ、イワシ、サンマ、サバなどの青魚に豊富に含まれています。
EPAは中性脂肪の合成をおさえ、その分解を促します。
DHAは中性脂肪だけでなく悪玉LDLも減らします。

 不飽和脂肪酸の一種で、LDLコレステロールや中性脂肪が高い人が避けなくてはならないものにトランス脂肪酸があります。
多く含む食品の代表的なものとして、サラダ油、マーガリン、ショートニング、ファットスプレッド、マヨネーズなどがあります。
また、それらを使用した食品(クッキーやスナック菓子など)にも多く含まれています。
 HDLコレステロールを上げるには有酸素運動が最も有効です。
ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動を1日30分以上、あるいは1週間で2時間以上行うと効果的です。
筋力トレーニングも役立ちます。
運動する時間がない人や苦手な人は、普段の生活のなかで積極的に体を使う工夫をするとよいでしょう。

健康メモ(11)「肺炎球菌ワクチンを接種しましょう」

健康メモ11_主な死因の構成割合

 肺炎と誤嚥性肺炎で亡くなる人は、年間およそ12万2千人です。亡くなる人のほとんどが65歳以上の高齢者で、入院中や介護を受けている人に多く発症しますが、元気に過ごしている高齢者も安心はできません。体調の変化などのちょっとしたことがきっかけで肺炎を引き起こしやすくなり、急激に症状が進むこともあります。
 風邪をひく、インフルエンザにかかる、歳をとって体力が衰える、糖尿病、呼吸器や心臓に持病があるといったことが原因になってからだの免疫力が弱まると、細菌に感染しやすくなります。
 高齢者が肺炎を防ぐ方法として、「肺炎球菌ワクチン」の接種があります。

健康メモ11_肺炎球菌ワクチンの予防接種

 65歳以上でこれまで接種したことのない人は、定期接種(公費助成)で23価ワクチンを受けられます。受けられる年齢は、65歳、70歳、75歳というように5歳おきです。23価ワクチンの予防効果は約5年と考えられているので、65歳になったら早めに定期接種をすませ、その後も5年おきに接種するのが理想的です。また、60~64歳で基礎疾患がある方も定期接種を受けられます。
 13価ワクチンは、成人の場合は任意接種で自費で受けることになります。肺炎のリスクが高い高齢者などは、23価ワクチンに加えて13価ワクチンも接種すると予防効果がより高まると考えられています。

健康メモ(10)「漢方薬の使い方」

 新型コロナ後遺症患者の増加に伴い、漢方薬を使う機会は増えています。しかし、漢方薬は通常の薬剤と異なり、患者さんの「証(しょう)」・・・その人の状態(体質・体力・抵抗力・症状の現れ方などの個人差・・・に基づいて処方する必要があります。
 証の分け方として有名なのが、「虚・実」です。

健康メモ(10)「漢方薬の使い方」

 例えば、風邪には葛根湯(かっこんとう)を処方しますが、これは比較的体力があり胃腸の丈夫な人に使うもので、おなかをこわしやすい虚証の人には用いません。

 また、急性上気道炎(風邪)に対して漢方では「病期」と「季節」で対応を変える必要があります。
病期は「表証」(発症72時間以内)、「半表半裏証」(発症48時間~)、「裏証」(発症48時間~)の3つが基本で、裏証では深部臓器の症状が出現し、消耗した人体の機能の回復を促進する効果が期待できる処方があります。季節による対応の違いですが、冬場の風邪・インフルエンザの表証では麻黄湯や葛根湯などを使うのに対し、夏場の風邪の表証では清上防風湯などを使います。

 新型コロナ後遺症の症状に対し処方される漢方薬には以下のようなものがあります。

【倦怠感】
◎補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
倦怠感や食欲不振、寝汗などの症状。体力があまりなくて疲れやすく、胃腸が弱い方に用いられます。

◎十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)
倦怠感や疲れ、貧血、食欲不振、手足の冷えなどさまざまな症状。食欲がなく、体力低下や手足の冷えなどが気になる方に用いられます。

【不眠・不安】
◎加味帰脾湯(かみきひとう)
虚弱体質で心身が疲れ、血色が悪い人の、貧血、不眠症、精神不安などの改善に用いられます。寝汗、微熱、熱感などがある場合に向きます。

【咳・息切れ】
◎人参養栄湯(にんじんようえいとう)
体力が落ちている人の全身状態の改善に効果が期待でき、特に咳などの呼吸器症状にも使用されます。

健康メモ(9)「がんの予防について」・・・国立がん研究センター「科学的根拠に基づくがん予防」を参考にしています

 日本人のがんの中で、原因が生活習慣や感染であると思われる割合をまとめたものです。

健康メモ(6)「睡眠を上手にとる」

 Inoue M, et al. Burden of cancer attributable to modifiable factors in Japan in 2015. Glob Health Med. 2022; 4(1): 26–36.より作成

 「全体」の項目に示されている、男性のがんの43.4%、女性のがんの25.3%は、生活習慣や感染が原因でがんとなったと考えられています。
5つの生活習慣「禁煙」「節酒」「食生活」「身体活動」「適正体重の維持」と「感染」ががんの予防で大切です。

(1)禁煙

 たばこは肺がんをはじめ食道がん、膵臓がん、胃がん、大腸がん、膀胱がん、乳がんなど多くのがんに関連します。
たばこを吸う人は吸わない人に比べて、がんになるリスクが約1.5倍高まることもわかっています。受動喫煙でも肺がん(特に腺がん)や乳がんのリスクは高くなります。

(2)節酒

 多量の飲酒でがんのリスクが高くなります。
男性では特に食道がん、大腸がんと強い関連があり、女性でも、乳がんのリスクが高くなることが示されています。
飲む場合は純エタノール量換算で1日あたり約23g程度(日本酒;1合、ビール大瓶;1本、焼酎;原液で1合の2/3、ワイン;ボトル1/3)までとし、飲まない人、飲めない人は無理に飲まないようにしましょう。

(3)食生活

1)減塩する

 食塩摂取量の多い男性では胃がんのリスクが高くなります。
また、女性は男性ほどはっきりした関連はみられないものの、いくら、塩辛などの塩分濃度の高い食べ物をとる人は男女ともに胃がんのリスクが高いという結果も報告されています。
厚生労働省策定「日本人の食事摂取基準」では、1日あたりの食塩摂取量を男性は8.0g未満、女性は7.0g未満にすることを推奨しています。

2)野菜と果物をとる

 野菜と果物の摂取が少ないとがんのリスクが高いことが示されていますが、野菜や果物を多くとればリスクが低下するかどうかという点は明らかではありません。
野菜と果物をとることは、脳卒中や心筋梗塞の予防にもつながるので、毎日意識的にとるようにしましょう。

3)熱い飲み物や食べ物は冷ましてから

 飲み物や食べ物を熱いままとると、食道がんと食道炎のリスクが高くなるという報告が数多くあります。
飲み物や食べ物が熱い場合は、少し冷まし、口の中や食道の粘膜を傷つけないようにしましょう。

(4)身体を動かす

1)活発な身体活動

 国立がん研究センターの研究報告によると、身体活動量が高い人ほど、何らかのがんになるリスクが低下していました。
特に、高齢者や、休日などにスポーツや運動をする機会が多い人では、よりはっきりとリスクの低下がみられました。
がんの部位別では、男性では、結腸がん、肝がん、膵がん、女性では胃がんにおいて、身体活動量が高い人ほど、リスクが低下しました。

2)推奨される身体活動量

 厚生労働省は、「健康づくりのための身体活動基準2013」の中で、18歳から64歳の人の身体活動について、“歩行またはそれと同等以上の強度の身体活動を毎日60分行うこと”、それに加え、“息がはずみ、汗をかく程度の運動を毎週60分程度行うこと”を推奨しています。
65歳以上の高齢者については、“強度を問わず、身体活動を毎日40分行うこと”を推奨しています。

(5)適正体重を維持する

 これまでの研究から、男性の場合、肥満度の指標であるBMI値21.0~26.9でがんのリスクが低く、女性は21.0~24.9で死亡のリスクが低いことが示されました。

※BMI値=(体重kg)/(身長m)×(身長m)

(6)感染

 感染は、日本人のがんの原因の約20%を占めると推計されます。
感染の内容として、B型やC型の肝炎ウイルスによる肝がん、ヒトパピローマウイルス(HPV)による子宮頸がん、ヘリコバクター・ピロリ(H. pylori)による胃がんなどがその大半を占めます。
肝炎ウイルスの検査を受けること、HPVワクチン接種、ヘリコバクター・ピロリ菌の除菌などが推奨されます。

健康メモ(8)「睡眠時無呼吸症候群は問診で疑います」

 睡眠時無呼吸症候群(閉塞型)は睡眠中に繰り返し上気道が狭窄または閉塞してしまい、呼吸をしようとしてもできないため頻回に低酸素血症が起こり、脳も体も休めなくなる病気です。深い睡眠が得られず、日中の眠気や不注意、疲労をきたし交通事故や労働災害のリスクの上昇、交感神経活性亢進による高血圧や不整脈、動脈硬化をきたし、心血管系イベントが発生しやすくなります。

 睡眠時無呼吸症候群の患者さんは自覚がないこと、また自覚があっても受診せずに放置していることも多いのが実態です。自覚症状として重要なのは、睡眠中の「窒息感」と「あえぎ呼吸」、起床時の頭痛、日中の過度の眠気、夜間頻尿、疲労・倦怠感などです。また家族歴も重要です。肥満が睡眠時無呼吸症候群(閉塞型)の最大の発症要因ですが、アジア人は下顎が後退傾向で小さいという解剖学的な特徴があり、肥満のない患者さんも多いようです。

 睡眠時無呼吸症候群を疑ったら、自宅で携帯装置による簡易モニター検査を行い、無呼吸低呼吸指数(AHI)を測定します。AHI40以上で眠気などの症状が強い場合はCPAPによる治療を開始できます。鼻CPAP療法で気道内に風を送って陽圧を維持し、上気道閉塞を防ぎます。

健康メモ(6)「睡眠を上手にとる」

健康メモ(7)「非結核性抗酸菌症とは」

 非結核性抗酸菌症(NTM)の患者さんは近年増加しており早急な対策が望まれています。わが国のNTMの約90%を肺MAC症(菌の種類です)が占めます。肺MAC症はやせ型で中高年の非喫煙女性に多く、慢性の咳や血痰、胸部X線の異常陰影で受診されます。結核とは異なり、ヒトからヒトへの感染はありません。水、土壌、塵芥などに常在する環境菌で、浴室の水や庭の土が感染源として注目されています。

治療開始が遅れると薬を長期間服用しても菌が陰性化せず、病変が進行して体重減少や呼吸困難を呈するようになります。

健康メモ(6)「睡眠を上手にとる」

上図は胸部CT写真ですが、両肺の赤丸で囲った部分に非結核性抗酸菌症による病変があります。肺の前の方(中葉や舌区と呼びます)に病変ができやすいのが特徴です。

 診断には喀痰培養検査が必要ですが、なかなか痰が出ない方もおり、起床して顔を洗うときに頑張って採取していただきます。

MAC症の治療は3種類の抗菌薬(リファンピシン、エタンブトール、クラリスロマイシンもしくはアジスロマイシン)で行います。副作用発見のため最初の2か月は2週間に1回の頻度で採血を行います。肺MAC症の治療期間は菌陰性化後約1年とされていますが、治療中止後再燃する場合も多く、実際は2年程度の治療を行うことが多いです。気長にじっくりやっていく必要があります。

健康メモ(6)「睡眠を上手にとる」

健康メモ(6)「睡眠を上手にとる」

 図は典型的な一晩の睡眠段階を示します。8~10分で入眠し、約90分ノンレム睡眠が続き、最初のレム睡眠が現れます。ノンレム睡眠の深さにはステージ1~4があり、入眠時は段階を経て深くなり、覚醒時は段階を経て浅くなっていきます。最初の90分のノンレム睡眠でしっかり深く眠れることがとても重要です。

 睡眠がうまくとれないと、インスリンの分泌が悪くなって血糖値が高くなり、糖尿病を招きます。また、食べすぎを抑制するレプチンというホルモンが出ず、太ります。交感神経の緊張状態が続いて高血圧になります。精神的に不安定になりやすいとも言われています。

 不眠症のパターンには①入眠障害(寝つきが悪く、30分以上経っても眠れない)、②中途覚醒(途中で目が覚めて、なかなか寝付けない)、③早朝覚醒(朝早く目が覚めてしまう)、④熟睡感欠如(ぐっすり眠った気がしない)があります。これらが組み合わさって起こることもあります。

 「体温」と「脳」に眠りスイッチがあります(西野精治「スタンフォード式最高の睡眠」)。覚醒時には深部体温が皮膚体温よりも2℃ほど高いのですが、入眠時は深部体温が下がり、皮膚体温が上がるためその差が縮まります。たとえば40℃のお風呂に15分入ったあとで測定すると、深部体温は0.5℃上がりますが、その後上がった分だけ大きく下がろうとします。寝る90分前に入浴を済ませておけば、その後さらに深部体温が下がっていき、皮膚温度との差も縮まり、スムーズに入眠できるのです。すぐ寝るときは深部体温が上がりすぎないように、ぬるい入浴かシャワーがよいようです。

 「脳」のスイッチを切るためには、寝る直前まで仕事をしたり、ゲームやスマホを使ったりせず、色々悩まず、何も考えないこと。ただそれは難しいこともあります。場合によっては適切な睡眠薬を服用することも必要です。睡眠薬を一度飲み始めると止められなくなる、睡眠薬を飲んでいると段々効かなくなってくる、これらは誤解です。

 どうかご相談ください。


健康メモ(5)「血圧を下げるには」

 「高血圧は万病のもと」と言われますが、高血圧だけで自覚症状は起きません。そのため高血圧は「サイレント・キラー(沈黙の殺人者)」と呼ばれるのです。血液の圧力が高いと血管の壁が劣化して破れたり、詰まったりしやすくなります。脳や心臓の血管が詰まれば脳梗塞や心筋梗塞につながりますし、足がしびれて動かなくなったり、腎臓の機能が低下して人工透析が必要になったりすることもあります。

 健診やクリニックで測った血圧が、上が140以上、もしくは下が90以上であれば高血圧と診断されます。自宅で測定する場合は、上が135以上、もしくは下が85以上が基準です。

 では血圧を下げるにはどうしたらよいでしょうか。

(1)減塩
 塩分摂取量が多いと血液の量が増え、血管の壁にかかる血液の圧力が増えます。一食で塩を多く摂取する食品の第1位はカップ麺、第2位は袋麵です。第3位は梅干、次いで漬物ですが、食べる量が少ないので大きな問題にはなりません。実際にはパンで摂取する人が多く、6枚切りの食パンには約0.8グラム入っていて、味噌汁お椀半分~4分の3に相当します。ただし、近年塩の摂取によって血圧が上がるかどうかは遺伝子で決まり、同じ量の塩を摂取しても同じように血圧が上がるわけではないことがわかってきました。血圧を下げるために厳しい減塩が必要な人は半数以下であるようです。

(2)カリウム
 カリウムは野菜(小松菜、ホウレン草、春菊、カボチャなど)と海藻、大豆、キノコに多く、魚や果物にも含まれます。カリウムをしっかり摂取すると腎臓は余分なカリウムを排出するのですが、そのときにカリウムがナトリウムを引っ張って一緒に体から出て行くのです。高血圧の薬を飲んでいる人がカリウムの摂取量を増やすと、薬を飲まなくてもよくなることもあります。

(3)減量
 肥満傾向の人が減量すると血圧が下がることがわかっています。その理由として、脂肪で押された血管が広がり心臓の負担が減ること、食塩感受性が下がること、内臓脂肪が減少すること、が挙げられます。

(4)運動
 ややきつい有酸素運動を一日30分以上、週に180分以上行うと血圧を下げる効果が出てきます。運動に慣れていない人は一日40分、一週間に200~240分散歩してみてください。歩行のような有酸素運動で血管が広がるだけでなく、HDLコレステロール(善玉コレステロール)が増加することもわかっています。

(5)節酒
 アルコールを飲むと尿が増えますがナトリウムは出て行かないため、血液に塩分が濃縮され、血圧が上がります。安全に飲めるのは日本酒に換算して男性は週に6合、女性は3合までとされています。

(6)禁煙
 朝起きた時の一服で血圧は30上がると言われています。タバコが血圧を上げる力はすさまじく、これは新型タバコでも同様です。タバコの煙に含まれる一酸化炭素、ニコチン、活性酸素が悪玉御三家と言われています。

(7)ストレス、睡眠
 ストレスで血圧が一時的に上がることは珍しくありません。月曜午前は魔の時間帯と言われており、心臓病で亡くなる方も多くなります。睡眠不足も高血圧を引き起こしやすく、睡眠時無呼吸症候群の人は約半数が高血圧です。

◎生活習慣の改善で血圧はこれだけ下がる(高血圧治療ガイドラインより)

 DASH食:穀物、野菜、果物、豆類、低脂肪乳製品といった食材をバランスよく食べる

 血圧の薬を使う目的は血管と内臓を守ることです。一度始めた薬を一生飲まなくてはならないということはありません。生活習慣の改善によって薬を減らしたり、中止したりできる可能性もあります。ですから一緒に相談しながら高血圧に取り組んでいきましょう。

健康メモ(4)「増加しているうつ病」

 世界各国でコロナ感染症の影響によりうつ病の方が増加しています。例えば日本では、2020年以前の有病率が7.9%であったものが2020年には17.3%に増加しています。うつ病のスクリーニングとして、次の質問票(PHQ-9)があります。

この2週間、次のような問題にどのくらい頻繁に悩まされていますか?】

1.物事に対してほとんど興味がない、または楽しめない
2.気分が落ち込む、ゆううつになる、または絶望的は気持ちになる
3.寝つきが悪い、途中で目が覚める、または逆に眠りすぎる
4.疲れた感じがする、または気力がない
5.あまり食欲がない、または食べ過ぎる
6.自分はダメな人間だ、人生の敗北者だと気に病む、または自分自身あるいは家族に申し訳ないと感じる
7.新聞を読む、またはテレビをみることなどに集中することが難しい
8.他人が気づくくらいに動きや話し方が遅くなる、あるいはこれと反対に、そわそわしたり、落ちつかず、普段よりも動き回ることがある
9.死んだ方がましだ、あるいは自分を何らかの方法で傷つけようと思ったことがある

 各質問の頻度を、まったくない0点、数日1点、半分以上2点、ほとんど毎日3点と点数化し、その合計点を出します。そして10点以上の場合、うつ病の可能性が高いのです。

 うつ病治療の4本柱は、①心身休息、②環境調整、③心理療法、④薬物治療ですが、食生活や運動のような生活習慣の改善も重要視されています。不健康な食生活、喫煙、アルコールの乱用、体を動かすことの少ない生活はうつ病の危険因子であり、運動、食事指導、禁煙はうつ病の治療としてのエビデンスがあります。

 うつ病かもしれないと思った方は、まずかかりつけ医に受診していただくのがよいと思います。

健康メモ(3)「ワクチンの予防接種について」

 ワクチンの導入により多くの感染症の症例数は99%以上減少しました(ジフテリア、麻疹、ポリオ、風疹、天然痘など)。百日咳、破傷風、ムンプス(おたふくかぜ)も90%以上、A型肝炎、B型肝炎、水痘は80%以上減少しています。

 ワクチンは感染症の抗原を接種することで、将来の病原体へのばく露の際に十分な免疫反応を得られるように備えるものです。これはワクチンを接種した人の感染リスクを低下させるわけですが、多くの人が接種することでコミュニティにおける感染症の流行リスクを下げることになります(集団免疫とよびます)。

 ワクチンを接種することによる害(副反応)がないわけではありません。現在推奨されているワクチンはその害よりも利益の方がはるかに大きいものです。日本には「予防接種健康被害救済制度」があり、定期の予防接種によって健康被害を生じた場合は、医療費・障害年金等の補償の対象になります。

(1) 麻疹・ムンプス・風疹ワクチン(MMRワクチン)

 MRワクチン(麻疹・風疹)とムンプスワクチンを別々に接種します。非常に有効性に優れたワクチンです。日本では2011~2014年に風疹の患者が17,429人発生し、45件の先天性風疹症候群も報告されました。大田区では現在、19歳以上の妊娠を希望する女性とその同居者に対し、無料で抗体検査、ワクチン接種(抗体価が低い場合)を行っています(当院でも行っています)。なお、MMRワクチンの有効期間は終生と考えられています。

(2) 破傷風・ジフテリア・百日咳ワクチン

 日本では、生後3か月から18か月までにジフテリア・百日咳・破傷風の三種混合ワクチン(DPTワクチン)+ポリオワクチン(IPVワクチン)を4回接種し、11歳以降にジフテリア・破傷風の二種混合ワクチン(DTワクチン)を追加接種します。

(3) 水痘ワクチン

 2004年から定期接種が始まりました。1回目を12~15か月に行い、その半年~1年後に2回目の接種を行います。

(4) 帯状疱疹ワクチン

 水痘ワクチンが2016年に帯状疱疹ワクチンとして承認され、2020年に「シングリックス」が帯状疱疹ワクチンとして認可されました。水痘ワクチンが弱毒生ワクチンであるのに対し、「シングリックス」は不活化ワクチンで、発生抑制効果、神経痛抑制効果とも高いです。適用連例は50歳以上で、「シングリックス」は2か月の間隔で2回うちます。

(5) 肺炎球菌ワクチン

 2013年以降23価ワクチン(PPSV23)が定期予防接種(65歳以上)に追加されました。1回の接種で約5年間効果が持続するので、5年ごとに接種します。成人に使用できる肺炎球菌ワクチンは2種類あり、もう一つは13価ワクチン(PCV13)です。PPSV23は90種類の肺炎球菌のうち23種類を予防できますがその免疫効果はそれほど強くありません。一方PCV13が予防できるのは13種類ですが、より高い免疫効果を期待できます。PPSV23とPCV13を両方接種することで、強力な予防効果を期待できます。

(6) インフルエンザワクチン

 ワクチンの有効性は、その年のワクチンとその年に流行するウイルスの型がマッチするかどうかによって異なります。マッチすれば最大で50~60%の予防効果があると言われています。仮にマッチが悪くてもインフルエンザの発症、それによる入院または死亡を低下させる効果があると考えられています。ハイリスクな心血管系疾患を有する患者群においてリスクを有意に低下させることが報告されました。

(7) ヒトパピローマウイルスワクチン(HPVワクチン)

 2価ワクチン(サーバリックス)と4価ワクチン(ガーダシル)が使用可能です。サーバリックスは子宮頸がんの70%、および肛門がんの80%の原因となるHPV16およびHPV18に対して予防効果があり、ガーダシルはHPV16およびHPV18に加えて尖圭コンジローマの90%の原因とされるHPV6およびHPV11に対しても予防効果があります。

(8) コロナワクチン

 2021年11月末以降、日本を含む世界各地において、新型コロナウイルスのB.1.1.529系統の変異株(オミクロン株)の感染が報告されています。

オミクロン株に対する発症予防効果については、ワクチン3回目接種によりその2~4週間後には発症予防効果が60~75%程度に高まり、一時的に回復します。しかし、20週後以降はその効果がほぼ見られなくなるまで低下したというデータもあり、効果の持続期間については短い可能性があります。入院予防効果については、3回目接種から105日以降では、18~64歳で67.4~75.9%、65歳以上で85.3~86.8%という報告や、3回目接種後の発症予防効果や入院予防効果は、オミクロン株BA.1とBA.2に対して同様であったとの報告もあります。

オミクロン株流行期において、60歳以上の者に対するファイザー社ワクチン4回接種群は、3回接種群と比較して接種後30日間で、感染予防効果45%、発症予防効果55%、入院予防効果68%、重症化予防効果62%、死亡予防効果74%であったと報告されています。

健康メモ(2)「生活習慣病改善のための食事療法のポイントは?」

 高血圧や高コレステロール血症に対しお薬を処方することは簡単です。しかし、本当に患者さんのことを考える医師は、禁煙やワクチン接種と共に、食事と運動習慣のことを患者さんに説明し、努力を促します。健康的な食生活の基本は以下のように集約されます。

(1)  適切な量を食べる

 カロリー摂取量のコントロールです。コンビニでパンやお弁当を買うときは必ずカロリー表示をチェックしてください。肉や加工食品など高カロリーのものを野菜や豆などに代えることで、ボリュームを減らさずに摂取カロリーを減らすことができます。カロリー過剰を招く4つの摂取源は、食事、間食(デザートを含む)、非アルコール飲料、アルコール飲料です。間食や飲料によってカロリー過剰になっていることが多いのです。

 1か月に1㎏瘦せようと思ったら1200kcalずつ摂取カロリーを減らします。

(2)  健康的な食材を多く食べる

 健康的な食材とは、野菜、果物、食物繊維の多い雑穀類、ナッツや豆腐、不飽和脂肪酸を多く含んだ油(オリーブ油やキャノーラ油)です。タンパク源としては肉より魚が優れています。

 逆に不健康な食材は、加工肉(ハムやソーセージ)、赤い肉(牛肉や豚肉)、飽和脂肪酸を多く含んだ油(バターやラード、マヨネーズ)です。パスタやパン、白米などの炭水化物は吸収効率がよく、急激な血糖値の上昇を招くため、食べすぎに注意が必要です。

(3)  塩分は控えめに

 日本人は1日平均で10gの食塩を摂取しており、厚生労働省が推奨する男性8g、女性7gという基準をオーバーしています。過剰な食塩摂取は高血圧、脳梗塞のリスクを上昇させます。高齢の方の減塩対策はまず味噌汁です。味噌汁には12g程度の食塩が含まれているので、薄味にするか飲む量を減らすことを考えてください。

 ラーメンやそばの汁を飲まないようにし、梅干を含む漬物、干物や塩鮭といった味付けされた魚にも注意しましょう。

(4)  アルコールはほどほどに

 アルコールの過剰摂取は心疾患、脳梗塞、がん、肝障害のリスクを高めます。男性は140g、女性は120gを超えないようにした方がよいとされています。140gのアルコールとは、ビールであれば中瓶2本(1L)、日本酒であれば2合、焼酎であれば1合、ワインであればボトル半分くらいです。一方で、多少の飲酒は健康によいというデータもあります。ビールであれば350Lを1~2缶くらい、ワインであれば1~2杯くらいでしょうか。

 

健康メモ(1)「糖尿病の患者さんが増えているのは何故でしょうか?」

 2016年の調査で、糖尿病有病者は1000万人、可能性が否定できない予備軍も1000万人いることがわかりました。

 食事をして血液中のブドウ糖の濃度(血糖値)が上がると、すい臓からインスリンというホルモンが分泌されます。インスリンは全身の細胞に作用してブドウ糖を取り込ませるとともに、余分なブドウ糖をグリコーゲンという物質に変えて、筋肉や肝臓にたくわえます。

 インスリンの分泌が不足したり、インスリンの効き目が悪くなると、血糖値が上がり、ブドウ糖からエネルギーを作り出すこともできなくなります。これが糖尿病です。

 日本で糖尿病の患者さんが増えた原因は脂肪の摂取量が増えたことです。総カロリーの摂取量は減少しているのですが、脂肪の摂取比率が30%以上と高いのです。脂肪摂取量が増えると内臓脂肪と皮下脂肪が増えます。このうち特に内臓脂肪(肝臓、すい臓、腎臓などの内臓の周囲にたまります)からインスリンの効き目を悪くする悪玉物質が分泌されるため、糖尿病を発症するのです。腹囲(お臍の位置でのおなかまわり)は内臓脂肪の量の目安で、男性で85㎝、女性で90㎝が上限とされています。

 体重の多い方が減量することは糖尿病の予防、改善に結びつきます。減量の方法として、脂肪摂取を減らす低脂肪食と、ごはんやパンなどの炭水化物の摂取を減らす低炭水化物食を比較した研究では、低脂肪食の方が体内の脂肪をより減らすことが明らかにされています。

 日常生活で食事の時に血糖値の上がり方をおさえる方法として、ごはんなどの炭水化物をとる前に野菜サラダを食べることが推奨されています。野菜サラダを先に食べると、血糖値がゆっくり上がるだけでなく、ピークの値も下がるのです。野菜に限らず、タンパク質や脂肪、食物繊維も血糖値をあまり上げないので、おかずを先に食べることは理にかなっています。